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5章:代償
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「役場もここから車でだいぶと掛かる。あんたが一人増えても誰にも知られんよ。住民票登録は、赤ちゃんができてから考えればええや」
「うちは代々、ここでひっそりと暮らしてるからな。周りの家もぜ〜んぶ親戚だから、一人でどこへも行けないよ」
「既婚だったんだって? それなのに、こうやってここへ来た。もう東京へは帰れないよなぁ。分かってっか?」
「息子も何回も何回も東京へ行っては嫁を捜してたんだけどな、やっと上手いこと連れて来た。よくやったべ」
男は那美を後ろから抱きしめ、髪に頬を寄せた。
「じぃちゃん、そうだろ。かぁちゃん、やっとなぁ、仕掛けに掛かったよ。漁と一緒だな。“網を仕掛けてじっと待つ”。魚みたく、前しか見られない、真っ直ぐにしか進めない獲物を選んでなぁ。ふふふ。タイミングがなぁ、大事ってことだ。絶対、逃さねぇよ」
…………那美は震えていた。
しかし、それは寒さからなのか、恐れからなのか……彼女自身、分からなかったのだ。
地吹雪が古ぼけた玄関を、どうっどうっと叩いていた。
【代償……終】
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