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10章:10 (1/8)

10章:10


彼の隣に居られる。
お客さんとして、お金を払う立場で。

本来望むべきではないそのポジションを選んだのは私だ。
お金を払い近くにいてもらう。
それが何よりも健康的に思えた。

私のお金がなくなればそれで終わり。
単純で簡単で。
分かりやすいこのポジション。
それでも近くにいたい。
理由が欲しい。
自分自身に何もない私は、こうして葵さんの隣にいる理由が欲しかったんだと思う。

もっと可愛くて、スタイルが良くて、優しくて、料理が得意で、器が広く、話術に長けていて、セックスが上手くて。

そんな私であったなら。
こんな事は言わなかったのかもしれないななんて。





「葵さん、一緒に寝ていい?」

「……当たり前でしょ?おいで。」

「……葵さん。私、葵さんとセックスしたい。」

「……。」





葵さんは何も言わずに私に覆い被さった。
とても辛そうな顔をして、私の服を丁寧に脱がせていく。

痛いくらいに強く抱きしめられて、私は幸せだった。




幸せで幸せで
とめどなく流れるその嬉し涙を見て、葵さんは私を抱く手を止める。





「碧。」

「……なに?」

「……出来ねぇよ。」






葵さんはそう言うと、裸になった私を抱きしめた。
背中をあやすみたいにポンポンと優しく叩かれて。

私はつい眠ってしまった。





夢の中で、葵さんはいつもの笑顔で。

ああ、私はこの笑顔をお金で買う事にしたんだ。
いい買い物したな。

なんて、思った。

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戀の糸 ©著者:elephant

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