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8章:〜空き部屋〜
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キラ!
そう、それは紛れも無く、昼間お祭り会場に居た、あのキラだ!
私は頭の中が真っ白になった。そして、弾き馴れた曲は、やがて機械的に終わった。すると、そのキラも黒い譜面台の奥の方に吸い込まれて行った。
一体何だったのだろう……
私はその後、自分が何をどう弾いていたのか、全く記憶に無いが、とにかく表面上は熟してたのか、最後の曲が終了すると英里子が近づいてきて
『お疲れ様』
と声を掛けた。
ピアノの蓋を閉じ、一礼し、みんなの居るテーブルに戻ろうとしてそちらに目をやると、キラとみんなが私を見てる。みんなも、そしてキラも、いつもと変わらない、明るい笑顔だった。
でも、神埼には何かが解ったのか、奥側の席で真顔のまま私を見つめてた。
私はキラの傍に行くのを躊躇われた。が、しかしキラを避ける理由も無い。複雑な心境だった。取り敢えずテーブルに近づく。
『お疲れ〜』
キラとみんなに笑顔で迎えられる。神崎はただ、真顔で真っすぐ私を見てる。しかし、この恐怖は神崎にしか理解されないだろうし、勿論、キラ本人だって全く知らないのだから、どうにかして取り繕うしかない。
『ありがとう、みんなお腹空いちゃったでしょ?』
と言ってテーブルの上のオードブルの皿に目をやると、もう殆ど空。
『いや、適当に摘んでたし』
とキラが言った。
『じゃ、ちょっと着替えて来るね』
そう断って、更衣室に向かった。
更衣室に行くと、英里子の部下の里美が、ちょうど掃除をしていた。
『あ、お疲れ様です』
そう私が声を掛けると、しゃがんでごみ箱の内袋の口を縛っていた里美が振り返って
『お疲れ様ですぅ〜』
と笑顔を見せた。
『今日忙しかったのに、ごめんなさい、友達連れ込んじゃって』
と言うと里美は
『返って動かないで居てくれるテーブルがあった方が楽なのよ』
と言った。確かに、彼女にしてみれば、店の売り上げがどうであれ、給料は変わらない。
私はドレスをワンピースに、パンプスをローヒールに履き変えると、チラっとドレッサーに目をやった。ドレッサーは里美の手によってピカピカにされ、そして三面鏡は、鎮かに閉じられている。
この鏡の奥底に、一体どの位の部屋が在り、どの位の存在が潜んでいるのだろうか ――
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鏡からの使者 ©著者:Jude(ユダ)
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