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8章:〜空き部屋〜
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『しかし、見事に変身したな』
とザムに言われると、我ながら本当だと思ってしまう。
『全然楽譜見ないんですか?』
神崎が不思議そうに聞く。
『全部子供の頃に弾いてきた曲ばかりだし、あとは聞き齧りをアレンジしてるだけなんです』
『凄いよね、どうやって頭に詰め込む?つか、即興のアレンジって凄い』
そうキラは感心するが、実は適当。その時の気分次第。
『これでリクエストするのか……』
トッシュがリクエストカードを手にして眺めてる。
本当は、あの鏡の中に見た光りの話しをしたかったのだが、長くなりそうなので今は止めた。
みんなも居る事だし、少し休憩を早めに切り上げる事にして
『じゃ、行って来るね』
と言うと、私はまたピアノに向かう。お祭りが完全に終わったのか、ピアノの近くの入り口付近には、ただ今満席、の札が在り、何組かのお客がウェイティングシートて待っていた。
私はそのお客に軽くお辞儀をし、椅子に掛けた。
少し華やいだ雰囲気を作りたくて、ショパンの華麗なる大円舞曲からスタートし、それからお客のリクエストに応じた。そして最後に、ライヴのリクエストのWe're All Alone で締め括る。
また、テーブルに行くと、キラから『ありがとう!』と言われた。
英里子さんが近づいてきて
『お疲れ様です。次でラストだからオーダー通しますけど』
とメニューを各自に渡す。
『じゃ、私はこのリブのコースを』
と神崎が言うと結局全員でそれに決定。英里子がメニューを回収すると、私は最後のステージに入った。
石造りのホールは、本当に音が綺麗に響く。間接照明で、手元が暗いので、ピアノの譜面台の横には、ランプが燈されている。譜面を見ないので、当然譜面台は寝かせたまま。時々寝かせた譜面台に自分の顔が映る。そう、あくまでも、自分の顔。
と、お客のリクエストでアメージングレースを弾いていた時だった。ラストコーラスで半音上げてメロディーを引き出したその時、その、自分の顔が映るべき黒い譜面台に、何処かで見た男の顔が映し出されてきた。最初の内はぼんやりと、でもそれは段々ハッキリとしてくる。アメージングレースは、勝手に流れ、私はその顔に集中する。その顔がいよいよハッキリした瞬間、私は手を止めそうになった。
その男は正に薄笑いを浮かべ、真っすぐに私を見つめてるのだ。
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