あの子は、闇の広がる砂漠に産声ひとつあげて、この世に生を受けた。

汚れなきその体は、赤子そのものであったが、その体に黒く深く輝くふたつの瞳は、鋭くもあり、まるで全てを知っているかのような眼差しは、生まれながら大人であるかのように思えた。


今思えば、あの子はこの闇におおわれた砂漠にひとすじの光を照らす道標かのように、強くたくましく育ち、風と共に旅立っていったのである。

その旅は、どこでもないどこかへ。
そう、行き先も分からないまま、そして求めるべきものも分からないまま、ただ、柔軟に風に身を任せるかのように、ふらりと始まったのである。