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5章:無くした夢 (2/2)

…美術や金属加工のカリキュラムが多くある大学への進学を菜々美には内緒で決めた。
合格発表の通知書、そしてもう一つ菜々美へのプレゼントを小さな小包みに入れて、冬の寒い朝に、白い息を弾ませて菜々美に会いに行った…

…だけど…。





自分で探せる範囲は探した。
警察には取り合ってもらえず、興信所にも頼んだりもしたが菜々美を見つけることはできなかった…。




でも今は…。 






―…ニャァ〜…― 



『―…こらっ!し〜…ダメだよ鳴いちゃ…。俺のマンション、ペット禁止なんだから…。』


俺は部屋のソファにどっかりと座ってくつろいでいるクロに向かって言った。 

…どういう訳かあの公園から付いてきてしまったので、仕方なく家にいれた。 

『…しかし…普通、猫ってのは初めての場所は警戒するんだぞ…
…こう、そろ〜っと身を低くして家中を探索して安全を確認して…』

俺は四つんばいになり猫の様に動いてみせて見たが… 

―…フナァ〜…― 

『あくびするなよ…。』

クロはチラッと俺を見るとウニーと伸びた後に部屋の中をウロウロして…
ピタッと、ベッドの脇にある棚で足を止めた。 

俺はグッと胸の奥が切なく痛んだ。

…そう…今は…。

クロが立ち止まった引き出しに手を伸ばしてそっと、開けた…。 



引き出しには小さな小包み…。…箱のなかは…。 

無くしたはずの夢が入っている…。

―…ガタッ…―

引き出しを押し戻して、 

もう一度眠りについた。 

…できたら、今は夢を見ずに…
眠りたいと思った…。

夢を見るたびに、ガキだった頃の俺がでてくるから…。
だけど…ガキの俺がまだいてくれるから、まだこんなにも鮮明に思い出せる… 



菜々美のことを… 




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黒の扉 〜トパーズ〜 ©著者:金木犀

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