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1章:転校生
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1章:転校生
「涼哉ぁ〜!おせぇょ〜!私が飲みに来てんだょ〜!待たせんなょ〜!」
すっかり出来上がっている常連客に心ではうんざりしながらも、笑顔で手を合わせ、
『…ゴメン。ゴメン。お待たせ〜
あ〜真奈香の席に早く戻りたくて頑張ってきたから、喉が渇いちゃったよ。』
常連客の隣にこれでもかと言うくらい近づいて座り、ねだってみる。
客は不貞腐れた顔をしながらも金を落としてくれる。
俺はここぞとばかりに大声を上げてボトルが入ったことをアピールする。
すると他のホストが一斉に集まりその客をもてはやす。
ホストクラブに夢や癒し様々なものを求めてくる者もいるが、
ここには男と女、酒と金、ただそれだけの場所。
少なくとも俺はそうとしか思っていなかった。
今日も酒を浴びるように飲み、吐き、営業が終わるとソファに倒れこむようにして眠り…昼には目を覚まし家に帰る。
毎日そんなことを繰り返してもう10年になる…。
そして今日も酒が抜けるまでソファに寝込み、目が覚めたのは昼前だった。
「…あ。涼哉サン…起きました?何か飲みます?」
新人が店の掃除をちょうど終えて一息ついているところだった。
…名前は…忘れた。
『…あぁ。あ〜…最近、年かな…酒が抜けねぇ。…あれ持ってきて…あ〜あの酸っぱいやつ。』
新人は慣れた様子でグラスにジュースを入れてきてくれた。
「涼哉サンは、酔いざましにアセロラジュースですよね?」
『おぉ…さんきゅ。わかってんね。』
新人は照れたように長い襟足をいじると、俺の他に数人ソファに寝込んでるやつらにもそれぞれ飲み物を渡していた。
『…おつかれ〜』
ジュースを飲み干すと俺は店を後にした。
店を出ると太陽はもう真上に昇っていて容赦なく俺を照りつけてくる。
『…あぁ〜あぢぃ…もう夏も近いな…』
俺は酒と汗と…あとはなんかイロイロなものでヨレヨレになった、ブランドスーツのジャケットを肩に掛けて駐車場に向かって車に乗り込んだ。
自宅に帰る途中、完全に酒の抜け切らない頭でボーッと運転していると、いつもの堂々巡りな疑問が俺の頭でぐるぐる回る。
…俺はいったいなんでこんなことをしているんだ…?
こんな事を考えていても答えは同じだ。
…あの時、あいつがいなくなったから…俺の想いも、夢も…全部…無くなった…
そして最後にはこう思う…
…あいつに…逢いたい…
と…。
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黒の扉 〜トパーズ〜 ©著者:金木犀
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