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9章:それぞれの朝
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「じゃあ、気をつけてね。なんかあったら、連絡してね。」
マンションの下まで、見送りに来てくれた梨香。
昨日は結局寝てないらしい。
「うん、ありがと。じゃあ・・・また。」
よく晴れた朝だ。
昨日とは違う、少しだけ軽い足取りで駅に向かう。
俺が住んでいたあの街は、変わったのだろうか。
帰りたくないとは思っていたけど・・・
まだ俺が小さくて、家族が一緒で何の悩みもなかったあの頃・・・
兄貴に会ってから、不意に頭に浮かんでくる。
いつか、梨香も一緒に帰れたら・・・・
――――駅に着き、バス乗り場に向かう。
これなら早く着きすぎず、少しだけ気持ちに余裕が持てる。
とりあえず兄貴に電話しておこう。
――――トゥルルルルル…
「もしもし。」
「あ、俺。今日帰るわ。バスだから・・・5時間位かな。」
「おう、わかった。迎えに行くから着いたら連絡してくれ。」
兄貴の声が少し弾んだ。
後ろから、子供達の騒がしい声。
「ん、サンキュ。じゃあまた後で。」
電話を切り、時計を見る。
まだ一時間近くあるな。
―――タバコでも吸いに行くか。
喫煙所に着き、途中で買った缶コーヒーを開ける。
喫煙所のガラス窓からタバコを吹かしつつ、人通りを眺めてると、一人の男と目が合った。
ソイツは俺を見て、近付いてきた。
「?・・・」
喫煙所に入ってきて、俺を見ながら
「やっぱ健ちゃんだ!ひっさびさだなー!」笑顔になった。
俺の記憶が蘇る。
「おぉ!太一か!うわーほんと久しぶりだなー!」
丸岡太一。高校の同級生だ。
とは言っても、小さい街。
小・中・高はひとつづつしかない。仲間はほとんどがずっと一緒だ。
「健ちゃん、変わんねぇーなー、今何してんの?」
コイツの人懐っこい笑顔も変わらない。
他愛もない話しをしているうちに、バスの時間が近付いてきた。
「じゃ、俺行くわ。今度絶対飲みに来いよ!」
「行く行く!・・・健ちゃん、頑張れよ。」
俺は笑って「ああ。」と答えた。
太一は近くで働いてるらしく、いつもここの駅を利用してるらしい。
最後にタバコをひと吸いして、捨てた。
――――さあ、行くか。
過去に決着をつけに――――
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―深愛―果てにあるもの ©著者:まいん
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