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1章:岐阜県奥美濃 パート1【関、郡上編】
【はじめに】
リネン配送業に転職して九月で丁度一年が経った。
ホテルや旅館などの宿泊施設をお得意先とする業種で、行楽シーズンの夏季ともなると、一年の内で最も忙しいウルトラ繁盛期となる。
シフト制の週休二日制で有給もあるのだが、俗に言う赤い日や盆暮れ正月などの大型連休は夏季でなくても大忙しのため、有給など余程のことがない限りとらせてもらえるはずがない。
世間では休日とされている期間、我々は行楽地を楽しげに練り歩く観光客を横目にあくせくと業務に追い立てられて、挙句残業続きとなるのだ。
繁盛期と言えどもお盆ウィーク以外、週二日の公休日はそのままだ。
だが飛び石であるため連休は有給でも取らない限り望めず、日頃の疲れもあってか、たった一日の休みでの遠出なんて億劫でしかない。
つまり人が一年で最も開放的になる季節、自分にとっても一番好きだった季節を満喫することは、中年となって転職した今、時間的にも体力的にも難しくなった訳だ。
しかもここ数年の気温上昇は著しく、全国各地で猛威をふるう記録的な暑さは、もはや常態化してしまっている。
自分は標高の高い地域に幼少期から住んでいるが、例外ではなくなった。
連日続くうだるような暑さに辟易として、以前よりは活動的になれなくなったとニュースの街角インタビューで話す人も多くなってきたが、それでもコロナ明けの爆発力の影響か、または夏と言う季節柄、本能的に背中を押されてしまうのか、行楽地へ出かける人の数は依然としてうなぎ登りのような気がする。
こちらには、近くに全国的に有名なリゾート地がある。
涼を求めにやって来た人々を充実したレジャーでもてなすその場所には、大勢の老若男女の清々しい笑顔に溢れている。
自分もその笑顔のひとつになりたい。
地元ではなくて、自分の知らない場所で彼らのように息抜きを満喫して、そこで働くスタッフさんに仕事のやりがいを持たせてやりたい。
なぜなら、自分は皆が休みの日に仕事で汗を流しているかもしれないけれど、直接彼らと関わりを持たなくても、リラクゼーションに浮いたほのぼのとした表情に、こちらまで楽しい気分になれるからだ。
前述した通り、自分は今、夏を楽しめない。
だからと言って、夏を諦めた訳ではない。
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