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10章:第七ノ一章
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まこなのその笑顔に、不覚にもドキッとしていた。もちろん意表を付かれた、と言うのもあるけれども、それだけではなく、彼女のその顔にはまだ純粋で穢れなど知らない──ともするとそれは可憐とも呼べなくもない──少女としてのあどけなさが映しだされていたからだ。ただし、その一方で、彼女がなにかとてつもなく深くて暗いものを抱えているのではないか、そんな風にも感じていた。そして、どうやらそれは、彼女の持つあの、極めて稀で特異な能力と関係しているのではないか、なんとなくそんな気もしてならなかった。
「それで、わざわざこんなところに何しに来たんだよ?」最初に訊ねた質問をこのまこなと名乗る少女に再び訊ねた。「別に、ホストを漁りに来たって訳でもないんだろ?」そう言って、俺はまこなとちょうど真ん中の前方にあるアイスペール掴み取ると、目の前のグラスをひっくり返してその中に氷を3つトングを使って入れた。グラスは「コトンッ」と音を立てた。
まこなはその質問に「う〜ん、そうねぇ」とだけこたえてから宙を眺めた。
それから、俺はグラスに鏡月をツーフィンガーの高さまで入れると、その中に水を8割ほど入れてからアイスペールに刺さっていたマドラーでそれをかき混ぜた。そしてその水割りを三分の一程度飲んだ。グラスをコースターの上に置くと、今度はズボンのポケットから煙草を取り出して、その中の一本を口に咥えて火をつけた。そうしながら、彼女の次の言葉を待っていた。けれども彼女は一向に喋る気配を見せなかった。それでも、何も言わずに黙ったまま、まこなの次の言葉を待った。すでに消し終えたばかりの煙草の煙がかすかに目の前で揺らめいている。
やがてグラスが空になり、再び酒を作ろうか、とも思ったのだけれども、さすがに待ちきれなくなってまこなの方に目をやると、なんと彼女は眠っているではないか。しかもすやすやと寝息まで立てている。
「お、おい!」思わず、俺はソファーにもたれかかって目をつぶっているまこなの肩を揺する。
まこなの身体がかすかに揺れると、彼女は「う、う〜ん……」と言う声を発しながら瞼をおもむろに開いた。
それを確認してからから言った。「なに、寝てんだよ!!」
「えっ、だって、さっきからあなたの話がとてつもなくつまんないだもの」まこなは手で口元を覆いながら遠慮なしに欠伸をし始めた。
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