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42章:海を超えた女の友情
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42章:海を超えた女の友情
「いいよ、別に。
でも、ヒデちゃんって優しいんだね。
そうゆうとこ、私は好きだな。」
いくらか暑さが和らぎ、不意に空を仰いだ。
私が逃げるように飛び出してきた歓楽街の方角は、すでに重たそうな真っ黒な雲に覆われていて、蛇口を捻ったかのような唐突さで強い雨に打たれているのがわかる。
その汚れた色の雨雲が、段々とこちらにも近づいてきている。
久しぶりに会ったんだから、ちょっとお茶でもー
と、彼が誘ってきたので、夕立もじきに来ることだし丁度いいわと思って、私は彼の誘いに乗ることにした。
私達は歩きながら思い出話に花を咲かせる。
だが、所々で彼の言葉に呂律が回らないような箇所があり、この時は、昼間から一杯引っかけてきたのかなと、呑気な思考ばかりが巡るだけだった。
彼の声を聞きながら、あることに気付いてしまい、私は眉を顰める。
どうしてこんなとこにいたのか、という矛盾だ。
こんな異世界のような場所を目当てに一人で来るのは、どうしても風俗関係者かその客以外ありえない。
風俗からは足を洗ったはずではないのか?
ラブホテルの従業員との可能性も否定できないが、それならば、私が立て続けに勤め先を問うた時、すぐに答えてくれても違和感はないはずだ。
だが、彼はその質問がなかったかのように、話題を変えてスルーしようとしている。
私は不穏な気配に締め付けられた。
会話の途中で、にこやかだった彼の表情がいきなりすっと消えて、重苦しい沈黙に変わった。
あまりにも突然だったので、頭上にクエスチョンマークを掲げながら彼の方を見ていると、不意に出口付近にある、古びたホテルの前で立ち止まった。
彼はこの先を想像させるように、私の背中に手を回し始める。
「ここで休憩していかない?
見かけはコレだけど、中は最新式で、フードだって美味しいんだぜ」
ポチッと大きな手の平が、冷たい汗に変わった背中に触れる。
「ねぇ、ヒデちゃんやめて…
私達、そうゆう関係じゃないよね…」
私は控えめに言ってその手を引き剥がし、身を引いた。
その時に見た彼の視線に、どうしようもない戦慄きが走った。
眉尻に皺を寄せたその眼は血走り、その赤い網目がわかるほどに瞳孔が大きく開いている。
いつものヒデちゃんぢゃない…
それは恐ろしい巨人のように、後ずさる私にのしかかろうとする。
同時に鼻腔に妙な異臭を捉えた。
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三人の女豹女教師 ©著者:小島 優子
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