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35章:パンチラオウ
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35章:パンチラオウ
駅前付近にある、飲食店が集まった雑居ビルの地下に小洒落たバーがある。
『ブルーシャトー』と青文字の看板を掲げた重厚な扉の向こうは暗めな通路が広がっていて、奥に進んでいくと、カウンター席の他に丸テーブルが三脚づつ対に並んでいる。
表向きは隠れ家という表現がぴったりのシックな空間なのだが、この店はあることで男性のウケがいい。
切り盛りする店主の男は、夜の雰囲気をまんま曝け出したようなクーリッシュな中年男だ。
彼の名は竹野内豊
引き締まったボディに背も高く、濃い目の顔には柔らかそうな口髭がたくわえられている。
朴訥(ぼくとつ)で風貌に英国紳士のような品があり、女性客からの人気も高い。
オールナイトで営業していて、普段はお日様が顔を覗かせれば閉店という店だが、この日は始発が出発してもまだまだ営業を続けている。
カウンターにひとり、最も大事なお客さんがジントニックのグラスを片手に、スツールにふんぞり返っているからだ。
泥酔している様子はない。
竹野内がグラスを磨く目の前で、湿っぽい沈黙を支配するかのように待ち人を待っている。
客の名は近藤万千代。
顔面に陰惨な傷痕がそこかしこに走る、極道の風格がバリバリの強面な中年である。
彼はお客というよりは店の用心棒だ。
トラブルを起こした客の前にこんな男がドシンと立ちはだかれれば、誰もが酔いから覚めて閉口してしまうだろう。
「タケ、丸テーブルにスツールは正解だったな。」
しばらく重い沈黙が続いたが、それを打ち破るように、ガン、とグラスの底を鳴らして近藤が言った。
カウンター越しの竹野内は綺麗なポーカーフェイスで奥のテーブルを見やり、
「お恥ずかしいことです。
シックなイメージを強調したつもりでしたが、いつの間にやらパンチラスポットなんてはやし立てられるようになりまして…」
と、おだやかな低音の語り口調で答えた。
丸テーブルは一本脚タイプでアンティークを意識したスタイリッシュなものだ。
座った時に脚が邪魔にならず快適に過ごせるため、女の子のグループやカップルはたいていそこを陣取る。
ミニスカートの女性が座ることもしばしばで、酔いが回って無防備になると、かなりの確率でパンチラが拝めるらしい。
噂を聞きつけた男性客もうなぎのぼりで、いつの間にか店は出会いの場として名が売れて、そこそこ繁盛するようになったのだ。
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三人の女豹女教師 ©著者:小島 優子
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