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29章:フェラコレ2019 憧憬の眼差し
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29章:フェラコレ2019 憧憬の眼差し
朝焼けが滲むように東の空に広がり始めた頃、西の方面から始発の電車がごっとんごっとんとむさぼりながら歩くように到着した。
風を噴き出すような音を立てて扉が開くと、何人かの乗客が降りて、代わって何人かが乗っていった。
田舎町の始発は都会と違って、車窓を通して見える乗客の多寡は数えるほどしかいない。
この始発を使って駅から学校までランニングで通うことを日課にしているひとりの少年がいた。
少年はいつものように、野球の練習用の白いユニフォームにリュックサックを背負って改札を抜け、駅員さん達に朝の挨拶を交わしている。
駅前のロータリーに出た彼は手足を伸ばして準備体操し、雲ひとつない澄明な大空を仰いで帽子を深く被ると、元気に駆け出した。
まだ朝の6時を少し過ぎたところだ。
車もそんなに走っていない。
誰かに強制されている訳ではないが、少しでも他の部員より練習しようと、ウォーミングアップの一環として行っている。
亡くなった兄がいつもしていたように。
走りながら常に浮かんでくるのは兄の背中だ。
なんだかたまに兄の幻影が見えてきて、その背中を追いかけているような気分にもなる。
高校時代の兄は学校こそ違えど強豪校のエースとして活躍していた。
甲子園出場の経験はなかったが、その実力は折り紙つきで、各野球関係者や高校野球ファンでもその名を知らない者はいなかった。
その兄が初めて家に彼女を連れてきた時、彼の頬が染まった。
野球が上手くなれば、実力がついてスター選手になれば、あんなに可愛い彼女が出来るものなんだぁ。
彼は首を横に振って追い払った。
そんな邪念は一切考えるな、自分はレギュラーが取りたい。
レギュラーを取って甲子園のバッターボックスに立つことだけを考えろ、と自分に言い聞かせてピッチを早めた。
でも、払っても払いきれないものがある。
それは兄の意思を継ぐために野球を続けているのに、それを忌避しているのが憧れだった兄の彼女だからだ。
彼女は彼の学校に教師としてやってきた。
だが、久しぶりに対面して挨拶を交わしても返してくれないほど彼は嫌われてしまった。
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三人の女豹女教師 ©著者:小島 優子
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