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9章:浮世世界 (28/29)




店にも、ゆうひの姿はなかった。


その代わりに現れたのはカイリくん。


「澪ちゃんがホス狂に見えないように、ナチュラル仕様で来た。笑
どう?」

「惜しい!そのバッグがホストぽい。笑」


律儀に朝のお礼に来てくれたみたいだ。


「ゆうひちゃん、休んでるんだ?」

「うん、連絡も来ない。
ねぇ、ゆうひは本当に手を出したの?」


カイリくんは少し困った顔で静かに頷いた。


「愛逶にとっては初めてのタワーだったんだよね。

うちの店、指名替え自由なんだけど、愛逶のエースはもともと違うキャスト指名だったんだ。

それをよく思ってなかった元担当が、ゆうひちゃんに色々吹き込んじゃって。
ゆうひちゃん愛逶にタワーの事自体知らされてなかったみたいでさ、それもあってあんな事しちゃったんだと思う。

ゴメンね、完全俺の状況把握不足。」


ゆうひはトイレに立ったエースの後を追いかけて行き、そこで愛逶くんの彼女は自分だとエースに掴みかかったらしい。


タワーが中止になる事を恐れ、愛逶くんもカイリくんもエースの機嫌取りに必死だったと。


「別れちゃうのかな?あの二人…」


あたしの問いに再び困ったように苦笑いしたカイリくんは、煙草をくわえ年季の入ったデュポンで火を点けた。


「たぶん、愛逶に戻る気はないと思う。ゆうひちゃんには酷だけど、愛逶はだいぶ前からもう客としてしか見てなかったよ、彼女の事。」


いつもより低いトーンは、なんだか冷たく聞こえた。


「…なんか、サラッと言っちゃうんだね。」


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Addiction ©著者:結月 杏奈

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