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8章:一瞬の波瀾 (5/5)

七海が言った通り黒服に促されてふたりが階上に戻ると、エレベーターホールで2、3人の嬢が談笑していた。

「ねえ、あれ『Ambitious』の春季じゃない?」
「東京に移ったのかしら」
「愛チャン指名だってよ」

囁きが追ってくる。
春季の在籍していた『Ambitious』は風俗求人誌にいつも広告を出していて、かれは一度「人気ホストランキング」とやらでーおそらく熱狂的な客がひとりで何度も投票したからであろうがー1位を取ったことがある。
歌舞伎町の嬢が春季の事を知っていても特に不思議もなかった。

「ふーん。どこのホストか知らないけどあんなロリコン人形の、何がいいのかしらね」

その中の、ちょっと目を見張るくらい美しいひとりが聞こえよがしに言った。

春季は大して気にもとめない。自分が噂の的になるのも、夜の世界の派閥にもなれっこだ。そちらをきつい目で睨んだ七海を肘でつつく。

「おー、怖っ。お前、後で場内するから、約束守れよ」

「何の約束」

「この訳わかんない店についてあらいざらい喋るって約束だよ」

「教えてあげるけど。お前、はやめてよ。あたしには、ちゃんと七海って源氏名があるんですからね。てか、春季クンって有名だったの?」

「さあ?地元でだけだろ」

先導する黒服に聞こえないように囁き合いながらもといた席に戻ると…少女は既にそこに立って二人を待っていた。
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生まれ変わりの詩(うた) ©著者:薫

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