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8章:一瞬の波瀾 (2/5)

その時だった。隣室から悲鳴のような声がかすかに漏れた。

「いやっ、やめて・・・おねがい、誰か!」

細い、子供のような声に男の低い声が何か答える。

「愛チャンだわ」

七海が眉をひそめた。

思わず春季は壁に耳を寄せた。七海もそれに倣う。

隣室では数分程、押し問答が続いているようだった。

「ああもう!聞こえないわね…てかあたしたち、個室まで来てなんでこんな盗み聞きみたいなこと、してんのかしら」

七海は春季の肩から手を離し、ブランデーグラスをあおって笑った。
さっきまでのさっぱりした口調が戻ってきて、それはにわかに彼女を別人のようにみせた。

「あなた、愛チャンの、元彼かなにか?」
「なんで」
「だって、すごく真剣だから」
「いや、会ったこともない、と思う。ただ…」

どう、説明すべきか迷う、その刹那。

「俺はオーナーに金を払ったんだ!」

男のわめき声に、泣き声のような悲鳴が続いた。

隣室はそれきりしんと静まりかえった。微かな振動だけが壁越しに伝わる。中で何が行われているかは明白であった。

「・・・・・」

ふたりは顔を見合わせた。
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生まれ変わりの詩(うた) ©著者:薫

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