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6章:♯6
「今は走るだけで気持ち良い」
これまで走り続けたエアーの感覚は、ただ全身に興奮を伝えます。
両足で大地を蹴り上げて、強く前進して行きます。
手を振る動きや前傾の姿勢も知らぬ間にベスト・ポジションを取っています。
いつの間にかエアーの体は、理想的な走り方を追及していました。
心地よい風を感じて、走り抜ける瞬間は、十秒と続きません。
百メートルにも満たないコースの上で、エアーは自然と微笑みを浮かべます。
それは体の周りを包み込む、これまで味わったことのない感触が、エアーの体から湧き出すような感覚です。
耳元で、「おめでとう」と囁く声が聞こえるようです。
これまで走り続けたことに、とめどなく喜びが溢れ出ます。
まさに喜びの泉が、胸の奥から湧き出すようです。
リレーの選手が三人も並ぶ、注目を集める場所での一等賞。
なにと比べる訳もなく、ただ素直に喜びます。
「こんなボクでも勝てるんだ」
いつしか感情が高ぶりながら、両手のコブシを握りしめます。
「きっと次も勝てるはずだ…」
理由がなくとも、自然と自信が湧いてきます。
それでも笑顔の裏側に、走り続けてきた日々が、静かに思い出されます。
『おごることなく次の競技も、平常心を保ちなさい』
誰から教わった訳でもない、こんな文面が頭に浮かびます。
「そうだ…、練習通りに走り抜けよう…」
頭に響く囁き声を胸の奥に鎮めた時に、これまで味わう事のない感覚がエアーの大きな成長を導きます。
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たくされたバトン ©著者:香澄怜良
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