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2章:花嫁の左手
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麻由は私の腕の中で、苦しそうに呻(うめ)いた。
「……坂本さん……申し訳……ありません……幕を……開けます……私は……大丈夫です……」
「何を言ってるのっ! すぐに救急車が来るからねっ! 誰かっ! 指を……一緒に病院に!」
阿鼻叫喚(あびきょうかん)と化した場にはそぐわぬフローラルな香りが、血を含む彼女の髪から匂い立つ。
「私……これで……左手の指は無くなりました……だから、指輪ははめられないんです……買って欲しくても……はめる指が……」
薄く笑う彼女は、動けずに茫然自失とした夫に眼を移す。
私はぎゅっと抱きしめて耳元で囁いた。
「…………そんなに、ご主人を……ご主人のことを? じゃあ、麻里奈との関係も知ってて、なんだね……? どうして……」
わらわらと男性スタッフたちが、担架を携え飛んで来て、麻由をゆっくりと寝かせる。
その中の一人は、舞台に点在した指を拾い、タッパーにかき集めた。
担架に横たわる彼女は私へと、力なく右手を差し出す。
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東京ショートストーリー ©著者:七斗
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