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11章:〜抹消と死〜
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今夜は割りと空いている。テーブルも半分近く空席が在る。
やはり、ウィークデイはこんな感じで、ゆっくりお客が回転する。
1stステージ、2ndステージ共に、リクエストも数曲程度で、最後のステージとなった。
譜面台の脇には、リクエストカードが二枚。
それを見て、少し気持ちが萎えた。
【英雄ポロネーズ】ハイハイ………
私は手が小さい。良く才能に関しては、テクニック的な事に対して有る、無し、と問われがちだが、決してそればかりでは無く、身体的な条件も才能の内。つまり、私にはピアノの才能は無い。
F・Chopin …… ショパンはとても手の大きな人物だったらしい。後々我々が演奏する事になろうとは全く頭に無かったのか、この曲をごまかす事無く演奏出来る人が世界にどの位居る事やら。
もう、適当……私には一生掛かってもまともには弾けない曲なのだ。
その後、やはりショパンの別れのワルツ。やっと一息着ける。
と、後少しで終了、と言う時だった。
入り口のドアが開き、チラッとと目をやると、背の高い細身の男性が一人で入って来た。
それに気づいた真也が出迎えると、その人影は二人用の小さなテーブル席に行った。
私は演奏中で良く確認出来なかったのだが、どうも見慣れた様な感じがする。
ラストは秋らしく【落ち葉のエチュード】で閉め括り、本日の営業は終了。
ピアノの蓋を下ろし、一礼し、そのまま更衣室に向かう。
すると真也が近づいて来て
『お知り合いの方があちらの席でお待ちです』
と言って、小さな二人用のテーブルを見た。良くみると、それは神崎の後ろ姿だった。
『あら……じゃ、私着替えてちゃうから、ちょっと伝えておいて』と真也に頼み、そのまま更衣室へ。
更衣室に、今はドレッサーが無い。仕方ないので姿見で化粧をした。なるべく合わせ鏡にならない様にフラットに広げて。でも、演奏している間に誰かが掃除をしたのか、鏡はいつの間にか閉じられていた。
今はもう鏡を見る必要は無い。今夜は学校帰りだし、長袖のTシャツにジーパン。それにジャケットを羽織って来ただけ。
サッサと着替えを済ませると、更衣室を出た。
神崎は、まだ食事のオーダーを通して無いのか、テーブルには珈琲カップだけが置かれてる。
『お待たせして』
そう言って真向かいの席に掛ける。
『急に訪ねてごめんなさい』
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鏡からの使者 ©著者:Jude(ユダ)
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