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10章:〜割れた鏡〜
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キラは無表情のまま、ただ機械的に肉を口に運ぶ。神崎はわざと楽しそうにしてるのが判る。
『キラ、何かあったんでしょ?』
私はちぎったパンに料理のソースを染み込ませながら、キラを見る。
すると、キラが低い声で言った。
『俺の部屋の鏡も、同じ様に割れたんだ』
同じ様に?
みんな食べる手を止めてキラを見つめる。
『うん。その日の明け方もおかしな事あったし……』
キラはその夜、提出するレポートの下書きをしていて、いつの間にか机の上に伏せて寝てしまっていた。
どの位そうしていたのか、枕代わりとなっていた腕の痺れで目を覚ました。すると、窓を叩く音が聞こえたので、何だろうと思い、カーテンの隙間から外を覗くと、そこには自分そっくりの男の後ろ姿があった。
しかし、男はそのまま一度も振り返る事無く、普通に何処かへ歩いて行ったのだそうだ。
『間違い無く俺だったんだ。俺が普通に庭を出て、道路を左に歩いて行った。俺は、正体を確かめたくて急いで追い掛けたんだけど、その俺は道端に停めてあった自転車に乗って、そのまま何処かに行ったんだ。
そして昼間、鏡が割れた』
みんな固唾を呑んでキラを見つめる。
『おい、変な事言うなよ……』
ザム迄食べるのを止めてる。
私と神崎は、ただ、押し黙ったまま、あのお祭りの時に見たキラを思い出していた。
もう一人のキラが、まだこの次元に居る。
お祭りの日、私にだけ話してくれた神崎のあの話しを、私は今目の当たりにしてる。あのキラは結局鏡の世界には帰らず、今だ暗躍してるのだ。
その事と鏡が割れた事と、何か繋がりがあるのだろうか?
だとしたら鏡は私の目の前で割れたのだから、私にも何かがある、と言うことになる。
『ねぇ、じゃキラはドッペルゲンガーを見たって事?』
ミュウが恐る恐る聞いた。
『神崎さん、俺だったんです………』
神崎は何も答えなかった。私も答えられない。私も神崎も確かに見ているのだから。
『世の中には科学で割り切れ無い事もあります。でも、恐らくそれは、深い眠りの夢だったと思いますよ。そう考える事が、一番の身の守りとなりますから』
『俺、死ぬんですか?』
すると神崎は穏やかな笑顔で
『いいえ、ピタゴラスも芥川龍之介もちゃんと生きていたじゃないですか』
と言った。
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鏡からの使者 ©著者:Jude(ユダ)
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