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6章:〜合わせ鏡とドッペルゲンガー〜
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イジケてる。さっき迄の自信は何処に言ったのやら。
元々、まともなのかどうなのかも怪しいしが、イジケると言う事は、神崎にとっては真剣な事らしい。乗り掛かった船。話しだけでも聞いてみるか。
『そうですか?話しを聞いて頂けますか?』
神崎はまた、笑顔になった。この男、結構単純なのかも知れない。
『私はそう複雑な人間ではありませんよ。でも、友達は殆どと言える程居ません。みんな、私のこの奇妙な体質を、煙たがったり不気味がったり………』
それは理解出来る。私もそうだった。が、しかし私の場合、見える、聞こえる、感じる以外何も無い。しかもある程度の年齢迄、他の人も同じだとばかり思っていたから、何の意識も興味も無かった。
『気が触れてるだの、狐憑きだのって、みんな私を避けるんですよ』
お気の毒に。
『やっと理解ある方と逢えた、そんな気持ちだったのです』
私は段々神崎に同情してきた。これだけ何も言わずして私の考える事が解るとしたら、きっとそれは私に対してだけでは無く、他の人に対してだって、多かれ少なかれある筈だ。
私にも経験がある。
相手の考える事が、ふと意識に入って来る。だから、実際には何も発言してない相手が、あたかも何かを言ったかの様な錯覚に陥り、人が怖くなり人間関係を崩してしまう。
本当に言葉として、音として聞こえて来るのだ。
『ご理解の通りです。実際の声なのか、意識に語られただけの声なのか、判断が着かなくなってしまうのです』
ふと気づくと、神崎は確かに丁寧な敬語で話していたが、いつの間にか、あの勿体ぶった口調が消えていた。
『信じて頂けるかどうか……』
と神崎は珈琲を飲み干した。するとユニフォーム姿の珈琲屋が、そのタイミングを見計らって居たかの様に、デカンタを持ってやって来た。
『失礼。今日はお祭りなんで、お代わりは自由なんですよ。召し上がりますか?』
すると神崎は、少し恐縮しながら
『じゃ、せっかくですから』
と言って空のカップを差し出した。
夕べ、あれ程緊張し、謎めきを感じて居たが、それはあの場での雰囲気が、私の精神をまやかしていたのかも知れない。
同じ思いをしてきた彼に、私はもう何の抵抗も無くなっていた。寧ろ逆に、神崎の事をもっと知りたくなってきた。あのマスターとの最初の出逢いが今、フラッシュしてる。(不思議倶楽部参照)
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