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5章:〜神崎 竜司〜
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その声に振り返ると、そこには、満面の笑みを湛えた、あの占い師が立っていた。
私は夕べから今朝方に掛けて見た、あの夢がリンクし、体が硬直するのが判った。
『どうされました?私は怖いですか?』
夕べ、暗がりで見た時には良く判らなかったが、私を《お嬢さん》なんて言い方する年齢では無く、どう見てもまだ、30歳手前。細身で、背が高く、一見目立ちそうなキャラであるのに、居た事さえ気付かない。
『今日はまた、一段と賑わって居るみたいですな』
そう、この口調、何故か年齢を判らなくする。これも占い師と言うキャラ作りなのだろうか?
『私は不思議ですか?』
その時背後が急にどよめいた。会場には黄色い声が響いてる。
〔は〜い皆さん今日は〜……〕
どうやら、トークショーが始まったらしい。しかし、私はこの男から寸秒も目を離せなくなっていた。
『トークショーが始まったみたいですな……』
今、私はそんな事はどうでも良くなっている。どうしても、この男から目が離せない。
そうだ!名刺、あの謎の浮き彫りは一体何なのだろう。
『昨日お渡しした名刺、何かお気づきになりましたか?』
やはり、この男には私の考えてる事が判るらしい。ならば、思い切って聞いてみようか。
私はバッグから昨日の名刺を取り出した。体は硬直した状態でも、神経だけは異様なほど鋭敏になっているのが判る。
『何かお聞きになりたいみたいですね。どうでしょう、トークショーに関心が無いのでしたら、ほら、あそこに掛けて、ゆっくりお話しませんか?』
男が顔を向けた先を見ると、そこにはこの町の名物となって居る珈琲屋台があり、折り畳み式の、椅子とテーブルが設置されていた。
『珈琲でもご馳走させて下さい』
何故、私に珈琲を奢る?
私は占いの客でも何でもないのだ。
『ほんのお近づきの印しですよ。それに、年上の者が奢るなんて、良くある事じゃないですか』
確かにそれはそうなのだが、何故か何かが引っ掛かり、高々200円の珈琲も、とても高価に感じて来る。
その時、会場全体が大爆笑になった。だが、私には何故そうなったのか、サッパリ判らない。今の私にはいつもTVで聞き慣れて居るお笑い二人組の声も、全く耳に入って来なかった。
そして、あたかも催眠術でも掛けられたかの様に、その男の後に従っていた。
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