「…すき。」

「み…南…っ。」

突然の出来事だった。

友香雄は戸惑った。言葉に詰まる。なぜなら彼は妻子ある身だからだ。

思いもよらぬ南からの告白。友香雄は理性と欲望との間で葛藤していた。

彼は南を愛していた。その気持ちに迷いはなかった。だが、先の事を考えると頭がどうにかなってしまいそうだった。

友香雄をまっすぐに見つめる南の大きな瞳。自分の気持ちを認める事で、いまここで南を抱きしめてしまう事で、この澄んだ瞳を汚してしまうのではないかという不安が友香雄を襲う。

…だが、友香雄の気持ちは止められなかった。友香雄は南を強く抱きしめた。

「友香雄さん…？」

南は突然の事に戸惑いながらも、ゆっくりと腕を回し、友香雄を優しく抱き返した。

もう、言葉はいらなかった。

友香雄は南をそっと床に倒し、香りに誘われるように首筋に唇を這わした。

「友香雄さん……」

日が落ち、薄暗くなった友香雄の部屋。お互いの存在を確かめるかのように求め合う友香雄と南。二人の吐息が混ざり合う。

「…ぁっ…友香…雄さ…ん…っっ。」

−…ガチャガチャッ…ピンポーン−

「パパぁ〜っ！」
「あなたー！萌がどうしてもパパに会いたいって言うから来ちゃったぁ。居ないのー？」

聞き覚えのある声…そう、友香雄の妻、薫と娘の萌だった。
−…ガチャッ−

「…あら、いるじゃない。居たなら返事くらいしてよね。｣

薫はため息混じりに買い物してきた荷物を床に下ろした。

｢あぁ、眠っていたようだ…｣

｢パパ、萌ね、今日パン喰い競争で２位になったよ!!｣

｢すごいじゃないか、萌。２位なんてなかなかとれないぞ。｣

友香雄は膝に乗る萌の頭を優しくなでてやった。

｢ところであなた、そのダンボールは？｣

｢なに、捨てようとまとめてた書類だよ…ちょっとそこまで出してくる。｣

友香雄は傍らの大きなダンボールを小さなかけ声と共に抱え上げ、外へと出た。

そのままガレージの奥へ入ると、車の影へダンボールを置いた。

｢…すまなかったな、南。｣

南は、はだけたカーディガンをサッと羽織り直した。困惑した表情の友香雄。南は彼の頬にそっとキスをし、無言でその場を去っていった…。