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6章:〜屍の洞窟〜
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サクサクのクラッカーとラスク。一枚目のドアを開けた瞬間から香ばしい良い香りがした。
今日は、松永の前に速記用のペンもメモも無い。話すのが松永だったから。私が着いた時には、もう10人位集まっていた。そして、松永の隣の席がちゃんと空いていた。
私は何か勘違いされてるのかも知れない。私は松永が好きで隣に居るのでは無く、速記が見たくて隣に居るだけ。速記をしないのなら、松永の隣で無くて良い。
『じゃ、そろそろ始めようか』
それぞれにお茶が行き渡ると、マスターがそう言った。
『じゃ、俺が各地の神社や寺の特集記事を、仲間と一緒に手掛けてた時の体験を聞いて貰いたい』
松永はそう言うと煙草に火を点けた。
『ほんの小さい記事だったんだけど、毎週日曜日、あちこちの神社や寺を紹介し、そこの神主や和尚の言葉を仲間と一緒に載せてたんだ。
みんなそう信心深くは無いし、仕事と割り切ってたんだけど、結構人気があって、その記事のスペースも徐々に大きくなって行った』
この特集記事に結構注目が集まったのは、既に有名な所では無く、殆ど地元の人しか訪れない様な、そんな場所だったから、と松永は言う。
『そう言った場所って不思議な事に、金儲けをしようとすると、有名になって行くんだ』
確かにそうかも知れない。そう内心納得した。私の地元にあるお寺だってその通りで、和尚の代が代わったら、急にテレビでCMが流れる様になった。
『その時俺が行ったのは、北陸山中の寺でね。その寺は学年の頃、友達とツーリングに行って、道に迷って偶然見つけたんだ。本当に古い古い寺で、廃墟の様だった。
墓地も在ったけど、供養する人が居ないのか、荒れてたんだ。
その墓地のハズレの岩肌に洞穴が在った。でも立入禁止になっていて、鎖が張られてた。そして、その入り口を良く見ると、もう殆ど朽ちた、木製の立て札が有って、そこに《屍の洞窟》と書いてあった』
この内容だけでも、何かのホラー小説紛いだが、松永は大変な役者で、声の抑揚や言葉のリズムを巧みに変えるから、余計に不気味だった。
みんなが余りにもシ〜ンとなったので、マスターが
『さ、お菓子食べてよ、誰も食べてくれないの?』
と言い出した。そのマスターの気遣いを受けて咲枝ママが
『あ、勿論頂きますよ』
と言って手を出すと、みんなもお菓子に手を延ばした。
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