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5章:〜老人の影〜
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坂本はその老人に近づいて目を疑った。
その老人は、なんと昨日のあの老人だったのだ。
バイクを降りると転がしながら老人に近づいて声を掛ける。しかし、老人は坂本の声が聞こえて無い処か、姿も見えて無い様で、立ち止まりもせずに行ってしまう。
何処に行くのか気になって、後に着いて行く事にした。
数㍍後をずっと着いて行くと、あの銭湯に着いた。老人はそのまま銭湯に入る。銭湯の入り口には【朝風呂】とあった。
坂本は、この銭湯からもう一度始まるのでは?そう思い、中に入る。
番台に料金を出すと番台にいた女将が言った。
〔お客さん、一番風呂だね〕
それを聞いて、彼は思わず
〔今一人入ったじゃないですか?〕
と言ったが、女将は怪訝な表情で
〔いえ、お客さんが初めての客ですよ〕
そう言うのだ。
『確かに僕は老人の後を着いてそこ迄行ったんだし、確かに老人が入って行くのを見たんだ。
だから、どうしても自分で確かめたくてね』
坂本は、そのまま脱衣所に入った。しかし、女将の言った通り、誰の荷物も無い。浴室を開けると、やはり誰も居なかった。
『何だか狐か狸にでも化かされた気分で。とにかくこの町を出る事にしたんだ』
彼は、風呂を使う事無くそのまま脱衣所を出ると、女将に何か聞かれたが、それも無視してバイクに跨がると、一気に町を抜けた。
『暫く走って、やっと関東に入ると、ずっと飯を食って無かった事を思い出して、途中の食堂に寄ったんだ。
ちょうど昼時で、中には客がいっぱいで、席が無かった。その客の中に、入り口に背中を向けて、一人で食べる老人の姿が在ってね』
彼が入り口に立ってると、給仕の女性が言った。
〔こちら開いてますよ〕
坂本が承諾すると、その女性は、その老人の席に案内した。
『その老人は、食事が来るのを待ってるのか、俯き加減でただじっと座ってる。
僕は〔失礼します〕と声を掛けて、相向かいの席に掛けたんだ。そしてその老人を良くみると、その老人は紛れも無く前日の、そして朝のあの老人だったんだよ』
坂本は声も出ず、ただ呆然と老人を見つめてた。すると、老人はスーッと立って、開け放された入り口から出て行った。
勿論坂本もその後を追って外に出たが、もう老人の姿は消えていた。
『その後は?』
私が聞くと
『もう会ってない』
正体は不明のまま。
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