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2章:〜源氏蛍の里〜
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源氏蛍の棲息する、綺麗な川。七草と呼ばれるその地域の一角に在る酒屋に、見掛けない一台の黄色いスポーツカーが停まってる。
『すみません、冷えたコーラを下さい』
木製のカウンターの奥から、店の店主が出て来た。
『お、また来たね』
白髪のその店主がにこにこと迎えると、その青年もやはり笑顔になり
『今日は蛍を撮りに来ました』
そう言った。
『はいよ、コーラ』
店主が冷蔵庫から冷えたコーラを取り出し、栓抜きで王冠を取ると、青年に差し出す。青年はカウンターに百円置くと、そのコーラを旨そうに飲み始める。
『んじゃ、20円のお釣りと瓶代で、30円のお返し』
店主がそう言って、10円硬貨を3枚渡そうとすると、青年はそれを受け取らずに言った。
『今度、この一帯の特集記事を載せる事になったんです。この店も載せて良いですか?』
すると、その店主は何の事か理解出来ない様な顔で青年に聞いた。
『特集?特集ってのは、あれかい?テレビとか雑誌とかの………』
『ええ』
青年は、手にしていた一冊の旅行雑誌を店主に渡す。
『この雑誌に載せるんです。俺、実はフリーライターなんです』
そういきなり言われても、やはりその店主には理解出来ない様だったので、青年は自分の記事を載せたページを開いて見せた。
そのページには、この辺りの林道や、名水スポットが載っている。
『あれ、これはこの裏山の………』
店主はそこに掲載されている写真に目を見張った。
『はい、その通りです。俺ずっとこの辺り一帯を取材して来てるんです』
店主はまざまざとその青年を見る。青年はポケットから名刺を取り出した。
『本当はもっと早く自己紹介をしなくちゃいけなかったんですけど、実は俺、こう言う者で』
店主が名刺を見る。
『楠木晃久』
横書きの名刺の中央にはそう名前が記されていて、名前の上には何社かの編集社の名前が載っている。そして名前の下には、Fax番号と電話番号があった。
『あんちゃん、クスノキって言うんかい』
彼はもう何度もこの店を訪れているのだが、店主に名前を明かした事が無かった。
『はい、今更で申し訳ないのですが、クスノキ アキヒサです』
青年が少し照れた様に言う。
『そっかそっか…難しい仕事してんだな』
難しい仕事、まぁそう捕らえられても仕方ないのかも知れない。
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