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1章:〜Prologue〜
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子供達の喧騒に気づき、家々からは女房や年寄り達が顔を出す。
『あんれま、帰ぇって来たんかい?!』
『おう、今帰ぇった』
『疲れたんべ?風呂にすっかい?それとも飯が先かい?』
女房のその言葉に
『んだなぁ……まず風呂だ。飯はそれからゆっくり食うべ』
そう言うと、地面に置いたショイコをまた肩に掛ける。
男衆がそれぞれの息子や娘達と、あちこちの家に帰って行く。それを迎える、女房や年寄り達の暖かい笑顔がある。
そんな光景を、この集落の真ん中にある大きな大きな木はずっとずっと何世代も前から眺めてきた。
まだ、電気さえ通じないこの集落のあちこちの家には、蝋燭や行灯の明かりが点く。
やがて、夜鷹が鳴きはじめると、集落は深い眠りに就く。
この集落には時計も暦も要らなかった。集落の人々は、日が昇り始めると起き、畑で作物を育て、ニワトリに餌を蒔く。集落にある数ヵ所の井戸には女房達が集まり、話しの花を咲かせながら、洗濯をする。子供達は、親の仕事を手伝いながら、生きて行く術を学んで行った。
何の難しい理屈も要らない。ただ、ただ、穏やかに、緩やかに、日々を送っていた。
やがて数ヶ月が過ぎると、男衆はまた、山の神様から頂く恵を携え、生活物資の調達に町へ行く。
こんな生活が何時から続いてるのか誰にも分からない。分からなくても、それで良い。今日一日が平和で穏やかで、そして緩やかであれば………
周辺には山の神の恵みが溢れ、その恵みに応える様に、子供達が成長し、また次の世代へ受け継がれる。
必要な分だけの恵みを受け、食べる為に耕し、その土地で生きる為の知恵を、年寄りから学ぶ。
峠の向こうがどれだけ華やいでも、どれだけ便利になろうとも、自分達の世界をずっと大切にし続けて、新しい歴史を重ね続けていた。
その大きな木は集落の真ん中で、そんな彼等の全てを強く、優しく抱き続けて来た。一体何時からそうしてたのか、この集落の人々も、そしてこの木自身も、誰も知らなかった。
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右側の集落 ©著者:Jude(ユダ)
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