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5章:ブーランジェ
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「あんた、パンの事は随分と喋るんだね」
ショートヘアの娘の声に、その場の何とも言えない空気が破られた
「だけどさ、もっともな事言ってるみたいだけど、何か好きじゃないな、そういうの」
娘はなおも続け、零人も頷く
「そう…確かにね、らしくない…お騒がせしました、皆さん、今度こそ帰ります」
零人はパン箱を持ち上げるとママと客たちに挨拶をし、美晴の方をもう一度見た
「らしくないついでにもうひと言。伊海さん、あなたが優秀な味覚を持った職人だという事はすぐわかったよ。でもね、さっき、粉や酵母や水のバランスについて僕の感覚を随分と買ってくれた発言してたけど」
そこで零人はニヤリと笑う
「まだまだわからない事だらけなんだよね、パンって。何十年も粉を捏ねてる職人ほど勘や数字だけでなく、実際に生地に触れたがるでしょ。『わからないって事がわかる』から夢中になっちゃうんだ、パンは。だから僕もついムキになっちゃう」
そう言うと零人は踵を返し、まだポカンとしている美晴や店内の客にもう一度会釈し、勝手口へと歩を進めていく
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朝いちばん早いのは ©著者:黒蝶少年
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