4章:バゲット その２ (2/10)

｢クープ・デュ・モンドのブーランジェリー部門の優勝メンバー!?零ちゃんが？｣

美晴が所属する『ミッシェル・ルソー』がなぜ零人をスカウトに来たのかをママはすっかり聞き出してしまった

そして零人の経歴が明らかになるとさらにママの反応は大きくなる

｢凄い！凄いわ！パンの世界チャンピオンじゃないの！｣

ママの感嘆の声は狭い『ナイツ・ウォッチ』の店内に響き渡り、店内にいた客も感心しきりといった感じである

｢ひとの経歴を勝手にベラベラと…とにかく僕は現状に満足なんで…｣

零人はとにかく話をさっさと打ち切って、その場を立ち去りたくて仕方がない様子だ

｢ねえ、零ちゃん、ちょっとだけ待ってったら。ね、美晴さん、ところであなたは『ミッシェル・ルソー』でどんなお仕事をしてるの？｣

｢私は六本木店のブーランジェです。シェフ・ブーランジェの森恵介の次席を務めてます｣

美晴の言葉にママが大きく頷く

｢やっぱり職人さんだったか。折衝に向いてる様に思えなかったからね、話の持っていき方とかが｣