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1章:一、アル、ジェンヌ ノ 物語 (32/32)

20年前……あの、三ノ宮で千奈美に会った最後の日。


あの時ーー彼女はきっと、独りで……自分と決別していたのだ。

舞塚歌劇団の退団を決め、次の高みへの羽ばたきの為に。


ああ、けがれ無き、純白の死装束に包まれた千奈美の声が聴こえてくる。


『岡崎千奈美は死にました。私がこの手で殺したんや。これからは【千奈 美麗】としてだけ生きる。もうUターンは出来へん』


【千奈 美麗】としてなら何でも出来た。例えどんなことでも……。

20年の間も……一日たりともそのことを忘れたことは無かっただろう……いや【千奈 美麗】と共に生きて来たのだ。



ーー今日の晴れ舞台の為に。



ふと顔を上げると、銀座和光の鐘が聞こえる。

この鐘は未来永劫(えいごう)鳴り続け、正も否もなく万民の上に、平等に降り注ぐ。千奈美は己を全うしている。今までも、これからも。


私は思うーーどのように生き、どんな生涯を送ろうが、“これしかない”と思い定めて作った理念なのだから仕方がない。


それがどんな帰結になろうが、である。


そしてそれは、誰にでも……そう言えるのだ。




ーーアル、ジェンヌノ物語 終ーー

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アル、ジェンヌ ノ 物語 他三編 ©著者:七斗

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