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16章:嫌な、風 (1/9)

16章:嫌な、風



え、と声が漏れた。


二人はあくまで順調らしい。

付き合ってまだ間もないし、

マンネリに入ったわけではなく、

至ってラブラブなのだという。


しかし、だ。

先日彼の家に行ったとき、
何か違う空気を感じたのだという。




「わかんないんだけど」


彩は言った。




「…髪の毛」


「え?」


「私のじゃない、黒い髪の毛が落ちてた」



「うそ」




「しかも長いの」



話しながら彩は涙目になっていった。



「それに」


声が震え始めていた。




「なんか、怪しいの」




なにが?
と祐美は優しく問う。



「携帯も、絶対見せてくれないし、必死で隠す…」

もう、どうしよう


といって彩は涙をぽろぽろと流した。



励ましながら祐美は思った。



こんな彩を見たのは初めてだった。

いつもの彩だったなら、
「なに、この毛」
と怒り出してけんか勃発、
更には携帯を折り割るというケースだろう。





「彩、大丈夫だよ」


鼻をすすりながら彩は
こくん、
とうなずいた。


「…本当に拓さんの事、好きなんだね」



つやつやの茶色い頭をなでて、祐美はいった。



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あなたへ −なまえのないもの− ©著者:いろは

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