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15章:佐田と、人間
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15章:佐田と、人間
だからこそ、
ショックだった。
悲しかった。
アンナが
おろすつもりだなんて
一言も言わなかったけれど、
とても悲しかった。
「あらやだ、すごいクマじゃないの」
美容師が言った。
寝ていないわけではなかった。
起きたのは正午だった。
ベットに入ったのは
確か三時くらいだが、
ちっとも眠った気がしなかった。
いろんなことを考えていたせいだろう。
コンシーラーをしっかりつけた。
タイムカードを押すと、
アンナのカードはやはりささったままだった。
はっきりするまで
仕事は休む、
昨日もそういっていた。
そのほうが良い。
ただ、
今日病院に行くというはずだったが連絡がない。
ちゃんと報告するように言ったけれど、
もう時計は八時だ。
こちらから
電話するわけにはいかないな、
祐美は思った。
またなんだか悲しい気分になった。
煙草に火をつけて、
思いっきり肺まですった。
「いらっしゃいませ!」
入り口から声がした。
まだ八時を回ったばかりだった。
女の子もまともに出勤していないような時間だ。
「祐美さん、お願いします」
来て早々、仕事が始まった。
今日はシルバーのラインがきれいなロングドレスだった。
「失礼します、いらっしゃいませ」
座っていたのは、
白髪をオールバックにしたおじ様だった。
ずっしりと構えた
その大きなお腹の下に、
ヴィラの黒タイガベルトが光っている。
何度か話したことがある、ママのお客様だ。
「お久しぶりですね」
「おお、君か。
今日はお客さんを連れてきたのさ」
「?」
席には一人しか座っていなかった。
「今、トイレに行ってる」
「ああ、そうなんですね」
後ろに人の気配がした。
「おう、来た来た。
彼だよ。すごいものを作った人なのさ」
祐美はどうぞ、
と広げた御絞りを落としかけた。
銀縁めがねのこめかみにはもう、
絆創膏がとられていた。
「佐田君だよ」
「…!」
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