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3章:壊れた道標 (42/42)

★★★


耕作は山間の農村にある自分の実家を訪れ、老いた父親に土下座していた。


その両脇には奈緒と恵美里が正座している。


応接間の年季が入ったテーブルの上には二つの封筒。
その中には其々200枚の一万円札。


耕作の父親はそれを恵美里の前に、農作業により荒れた手で差し出した。


「これはのう、恵美里の成人式の晴れ着と嫁入り用なんじゃ。働いて働いて働いて、恵美里に返せ」


「親父……すまない……」


耕作は畳に額を擦り付ける。


「儂らの暮らしは大丈夫じゃ。あっちの山でやっておる田んぼがあるじゃろう? あの辺りの農家は皆、田んぼを売ることになったんじゃよ。農協の意向もあってな」


荒れた手が耕作達の背後を指差す。
耕作が頭を上げ背後を振り返ると、縁側の向こうには子供の頃に駆け回った須美高原(すみこうげん)が雄大に広がっている。
春の陽射しを大地いっぱいに浴びて、初夏を向かえる身支度をしているようであった。


「これは、その手付け金の一部じゃ」


★★★


「そうか。とにかく事なきを得て良かったよ」


奈緒は耕作の実家での一部始終を陽介に説明し終えた。


「でもさあ、当たり前だよねー。自分の息子がしでかした失敗なんだからさー。私まで頭を下げたんだよ」


ふて腐れる奈緒は頬を膨らませ、アイスティーをストローで吸い上げる。


「まあまあ、そう言いなさんな。久しぶりに美味しい物を食べに出よう」


陽介はそう奈緒を促すと、たばこを揉み消しソファーから立ち上がる。


「うん! そうだね!」


子供のようにすぐ機嫌を直す奈緒の髪を、陽介はくしゃりと撫でた。




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darkness in the heart ©著者:タルドス

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