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4章:過ちと償い (35/36)

「だ、大丈夫だよ! 自分で何とかするよ! みどりの仕事は増えているし、旦那にはきっちり慰謝料を請求するから」


奈緒は作り笑いを浮かべて必要以上に明るく返事をした。


「そうか。それならいいけど」


陽介はそう言うとたばこをひと息分吸い込み、溜め息混じりに煙を吐いた。


「じゃあ、そろそろ帰るね」


「ああ、気を付けて。今日は急に呼び出して済まなかったな」


奈緒はセンターテーブルの下に置いてあったバッグを持ち立ち上がる。


玄関まで見送りに出た陽介を振り返ると、ちらとその顔を見ては直ぐに目を逸らした。


「おやすみなさい……」


「ああ、おやすみ」


エレベーターを降りて車に戻った奈緒はエンジンキーを回す。
だが、アクセルを踏もうとする脚はがくがくと震えて発進がままならない。


(どうして? どうしてなの? 陽さん……)


奈緒は下を向き両手で顔を覆う。
その指の隙間からは止めどない涙が溢れ、ジーンズの膝を濡らしていた。


陽介の言葉の裏を返せば、『家と仕事は紹介する。それ以上は頼るな』となる。
傷心の奈緒にはそう聞こえたのだ。


(酷いよ。離婚するような言い方をしておいてさ。私はこれからどうすればいいの?)


離婚の事実を作り、それを陽介に突きつける。
いつも自分を大事にしてくれる陽介は寛大に受け止めてくれるはずだーー


奈緒のそんな浅はかな計算はひとり相撲に終わった。



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darkness in the heart ©著者:タルドス

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