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1章:晩夏と初秋の狭間で (2/26)

娘と旦那の夕食を慌ただしくこさえ、奈緒(なお)は左手にバッグ、右手にキーケースを携えスニーカーに足を通した。


「行ってくるから! 戸締まりしなさいね!」


「分かってるよ……」


ひとり娘の恵美里(えみり)の気だるそうな声がリビングから返る。


小学5年生。世間並みに反抗期である。


今日は返事があるだけ幾分ましだった。


勤務開始時刻の19時までは、あと30分しか残されていない。


奈緒は帰宅を急ぐ車の群れに愛車を合流させると、信号待ちの間に、髪にブラシを通す。


日頃から薄化粧だった。ファンデーションを軽く塗る程度だ。
仕事中は、肩までの栗色の髪を一本に束ねる。


だからーー身仕度は運転中にブラシを通すだけで充分だった。


夕闇のなかを20分程行くと、“焼肉と定食 みどり”の看板が水銀灯に照らし出され、一際目を引いた。
元来焼肉専門店であった店が、国道沿いという立地条件から、主にトラックドライバー相手に定食を振る舞い始めたのだ。


“みどり”のホールが奈緒の職場だった。


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darkness in the heart ©著者:タルドス

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