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3章:宿業
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浴室の冷たいタイルの上に産み落とされた新しい命。
悲鳴にも似た産声が響き渡る中、加根子は何かに気付いた。
指が…何?この指は何なの?
ぎゅっと握りしめている小さな手には指と呼べるものがなかった。
まるで肉団子のような肉の塊に、加根子は嫌悪感を丸出しにして顔を歪めた。
気持ちわる…
加根子にとっては誰の子種で出来た子供かわからなかったが、実際は勇二の子供であった。
無責任な射精によって出来た命、勇二はそれから逃れる為に嘘をついたのである。
加根子は新しい命に紅蓮亜という名を付けた。
意味などない。
ただ昔に読んだ漫画の登場人物の名前からとっただけであった。
紫音も星羅もそんな感じで、名前とは親が一番最初に子に贈る、一生背負い続けなくてはならない大切なものだという認識はなかった。
拾ってきた仔猫に名前をつける、そんな感覚でしかなかったのである。
紅蓮亜は夜泣きのひどい赤ん坊だった。
煙草を吸いながらの授乳、次第に母乳を拒み始めた紅蓮亜の為に粉ミルクに変えた加根子は疲労困憊しきっていた。
とにかく手の掛かる紅蓮亜に加根子は発狂した。
本当に殺してやろうかと考えたこともあったが、その度に紫音が涙ながらに紅蓮亜を庇い難を逃れていたのである。
加根子は再び体を売り始めた。
とは言え、出産の度に肥えた体はだらしなく弛み、女を売るには少々きついものがあった。
しかし値段を下げることで何とかその日暮らしが出来ていたのである。
ひどい時はホテルにも行かず、車の中で犬猫のようなおざなりなセックスをすることもあった。
男たちは避妊具を嫌う。
加根子はピルを飲んで妊娠だけはしないように心掛けてはいたものの、性器の痒みやオリモノなどは職業病みたいなものだと楽観視していた。
セックスの事前に性器を洗いさえすれば見た目には病気かどうかなんてわからない。
生の中出しで五千円、これを売り文句に加根子は日銭を稼いでいたのである。
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醜女 ©著者:小陰唇ふりる
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