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59章:逡巡 (1/1)

59章:逡巡

二月に入り、拓也はますます歩美の心移りを心配するようになっていた。風俗の仕事をしている歩美は異性との出会いには事欠かないはずである。店の関係者を含めて歩美に言い寄る男はいくらでも居るように思え、いつ新しい彼氏が出来ても全く不思議ではない気がした。歩美の心移りを防げるかどうかはともかく、一度連絡しておいた方が良いと思い、拓也は歩美にメールを送ろうとした。しかし元来それ程マメな男では無い拓也は、こんな場合に相応しい文章が全く思い浮かばなかった。それでも必要に駆られて何とか作成したメールの文章は読み返すと全く面白味がなく、いつまでも歩美から返信が来ないという事態を招きかねない気がした。携帯電話を片手に逡巡し、拓也は下書きメールを削除した。

そんな堂々巡りを何度か繰り返しながら、一週間が過ぎた頃、歩美から拓也にメールが届いた。


「2月になりましたね。あと少し、楽しみです。風邪引いてないですか?あゆの周りインフルになりよるけん怖いです。気合いでガードです。(笑)」

拓也はメールを読んで安心し、同時に歩美の気遣いに感謝した。連絡しなければいけないと思いつつ、あれこれ考えては躊躇していた拓也の気持ちを汲んで、歩美が自分からメールしてくれたように思えたからであった。拓也は直ぐに返信し、歩美と会えるのを楽しみにしていることや、既にインフルエンザの予防接種を受けていることを伝えた。そして最後に歩美も体調管理に気をつけるよう言い添えた。あと残りおよそ二週間で拓也は歩美と会えるはずであった。
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無題 ©著者:阿久津竜二

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