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46章:マリノアシティ
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46章:マリノアシティ
拓也は空いている部屋の中から、同じ料金で最も高層階の部屋を選んだ。エレベーターに乗り部屋に着くと、室内は白を基調とした内装に暖色系の什器で設えられ、清潔感のある雰囲気であった。拓也がカーテンを開けて窓の外を眺めると、飯塚市内を一望できたが、街の明かりはまばらで何とも寂しい夜景であった。
それから拓也はベッドに備え付けられたパネルを操作して照明を調節しようとした。拓也はこのパネル操作が不得手である。いつ来てもボタンの意味がよく分からず、一回の操作で最適な光量に調節できた試しがない。一方、有線放送のチャンネル合わせだけは手際が良かった。拓也のお気に入りはB15、R&B専門のチャンネルである。Rケリーやマーカス・ヒューストンの、性愛をテーマにしたエロい歌詞や色気ある歌声をバックミュージックにリラックスした気分でお気に入りの女と過ごすのが、この中途半端なエリート銀行員にとっての至福の時間であった。
何とか拓也はメインの照明を落として、ダウンライトに切り替えた。ダウンライトのオレンジ色の光に照らされた歩美を見ると、綺麗なストレートヘアーで、栗色の髪は眩い程に輝いていた。マリノアシティの初売りセールで買ったというグレーのニットワンピースと相俟って、一週間前に会った時よりも随分若々しく見える。マリノアシティの初売りセールには拓也も家族と行っていた。歩美に会うために穿いてきたジーンズはその時に買ったトゥルーレリジョンのジーンズである。
「マリノア行ったんだ。俺も今週マリノア行ったよ。同じ日に行っていたら会っていたかもしれないね。もし会ってたら目で合図してくれた?」
「けど、ちょっとの時間しかおらんかったんよ。」
歩美は初売りセールに誰と一緒に行ったのだろう。一週間前と比べると歩美との心の距離はやや遠くなった気がした。それだけでなく外見も綺麗になった気がする。女は一週間でも会わないと他人になるというのを拓也は何かの雑誌で読んだ記憶があったが、改めて金言だと実感した。
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無題 ©著者:阿久津竜二
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