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43章:専務
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43章:専務
夜6時に飯塚駅前で待ち合わせしていた拓也と歩美はそれぞれの車から、すぐにお互いの姿を確認した。拓也は駅前のコインパーキングに車を停めて、苺のパック詰めが入ったビニール袋を手にして歩美の運転する軽自動車に乗り込んだ。大晦日の前日に博多で会って以来、一週間ぶりの再会であった。助手席に座った拓也は早速シートのリクライニングの傾きに違和感を感じた。歩美がその様子を見て拓也に声を掛ける。
「シートが倒れてるやろ。ごめんね。こないだ仕事の帰りにお店の専務に送ってって言われて乗せたんよ。」
「・・・ふーん。」
専務というのは、中洲のマットヘルス店の幹部らしい。拓也は何も聞かなかったが、専務と言っても歳は若そうな気がした。拓也はその男と歩美の関係を勘ぐり始める。おそらく付き合ってはないのだろうが、体の関係はあるのだろう。その男は歩美を働かせてカネを稼いで、その上、歩美とセックスしているのだ。そう思うと拓也は何ともやり切れない気分になった。だが我が身を振り返ると、とても自分に不満を言う資格があるとは思えなかった。拓也は辛うじて冷静さを保ったまま、歩美に今夜の行き先を告げようとした。
「穂波のザナドゥってラブホは知ってる?こないだ車で通りかかったら、わりと綺麗そうだったんだけど。」
「知っとうばい。でも、あの辺りだと、もう一つ別に綺麗なホテルがあるらしいよ。」
「とりあえず、今日はザナドゥに行ってみようよ。」
拓也は歩美が今から行くホテルに行ったことがあるのか少し気になっていた。だが、マットヘルス店の幹部との事に比べると、所詮、過去の事であり、どうでも良いように思えてきた。さらに、よくよく考えると歩美は店の専務を車に乗せたとしか言っていない。そこから先は拓也の勘繰りに過ぎなかった。これ以上気にするのは止めよう、今夜はこれから歩美とセックスできるのだから。そう考えて開き直った拓也はホテルまでの道中、柄にもなく陽気な遊び人らしく振る舞おうとした。
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