夜9時を過ぎ、二人がホテルを出ると外はやや肌寒かった。スーツのジャケット以外に上着を持ってきていない拓也はTシャツの下にヒートテックの長袖を着ており、少し歩くとすぐに夜風が心地よく感じられるようになった。博多駅構内を通り抜け、筑紫口に出た頃には二人は手を繋いでいた。いつの間にか拓也は上司の目など気にならなくなっていた。そして、ヨドバシカメラの向かい側にある高架下の一軒の居酒屋に入った。

店に入ると、店内は意外にも広く、店員の元気の良い掛け声が二人を出迎えた。平日にも関わらず、大勢の客で賑わっている。店の奥にあるテーブル席に通された二人は差し向かいに座った。テーブルの中央をオレンジ色の光が煌々と照らしているが、全体的に照明はやや薄暗く、本来シャイな性格である拓也にとってはそれが有難かった。
二人は生ビールを注文し、乾杯した。暫くすると、それほど酒に強くない拓也に酔いが回る。歩美も楽しそうに寛いでいる。もともと良い気分だったところに酔いが加わって、ますます上機嫌になっていった。拓也は気の向くままに色々な話しを振った。二人の会話は弾んだ。