二人でシャワーを浴びたあと、拓也は財布から現金を取り出して、歩美に渡した。時刻はまだ9時前である。拓也に会うために、身仕度を整え、電車で小竹から博多まで来てくれた歩美をこのまま真っ直ぐ家に帰すのは気が引けた。なにより、せっかくの出張で来た博多の夜をもっと一緒に楽しみたかった。拓也はTシャツとジーンズに着替える前に、これから飲みに行かないかと歩美を誘った。歩美は嬉しそうに笑顔を見せ、快諾した。
今まで歩美が付き合った男の中には、ヤリたい時にだけ歩美を呼びだし、行為が終われば、すぐに帰れと言うような悪い男もいたのかもしれない。歩美の表情を見て拓也はそんな事を勝手に想像した。しかし、妻子ある身で、こんな風に歩美と会っている自分自身も、もしかしたら悪い男と大して変わらないのかもしれない。
不意に浮かんだ考えを払拭したくて拓也は、たった今まで自分と交わっていた女の幸せを願わずにはいられなくなった。そして、この女に対しては、持ち得る限りの率直さと誠意を持って向き合おうと決めたのであった。