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12章:逢引
約束の時間の少し前に飯塚駅前に着き、拓也は歩美にメールした。すぐに歩美から「私も、もう着いたよ」と返信が来た。拓也は車を降り、電話をした。
「どこ?」
「車の中」
駅の入り口から少し離れた所に、軽自動車が止まっていた。中を覗くと、眼鏡をかけた歩美がいた。半袖のブラウスにスカートを履き、3月にデリヘルで会った時よりも化粧は薄めで地味な感じである。
「ちょっと、車を停めるから待ってて」
そう言って、拓也は車をコインパーキングに停め、歩美の軽自動車に乗り込んだ。車内には煙草と香水が混ざったような匂いが漂い、ハンドルやダッシュボードは趣味の悪いカーアクセサリーで飾り立てられていた。カーステレオからはニーヨーが流れている。音楽の趣味は拓也と合いそうだ。
「眼鏡かけるんだね。」
「コンタクトレンズが目に合わなくて。似合ってないやろ?」
「ううん、エロそうな感じで俺は好きだな。」
夜の仕事をしている女の眼鏡姿は拓也にとってツボだった。ギャップにやられてしまうのだ。進学校出身の拓也は、学生時代、眼鏡をかけている女を山ほど見てきたが、眼鏡をかけている女ほど色気の無いものはないと思っていた。それがこうして大人になり、夜の仕事をしている女の眼鏡姿を昼間見てエロいと思えるのだから、つくづく大人になって良かったと拓也は思う。
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無題 ©著者:阿久津竜二
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