初夏の爽やかな風薫る7月の半ば、拓也は妻子に会うために福岡を訪れた。今回は連休と夏休みを合わせて一週間弱の滞在である。妻子を連れて別府に一泊旅行に行くことと妻の先祖の墓参りに行くこと以外に他にこれといった用事はない。拓也は事前に歩美に「今度、福岡に行くから、いる間に会おう」とメールしていた。すると暫くして歩美から快諾のメールが届いた。

家族で別府に一泊し、宮若の妻の実家に戻ると拓也は再び歩美にメールした。そして次の日の夕方に飯塚駅前で待ち合わせすることで話が決まった。妻の実家に滞在している間に他の女に会いに行くのは、拓也にとって初めての経験である。妻と妻の両親にどういう理由を言って外出するか、それが問題であった。美容院に行くと言えば、髪を切って帰らねばならない。行く前と行った後で見た目が変わらないもの。拓也の頭に思い浮かんだものはマッサージであった。二年ほど前に一度ぎっくり腰を患ったことがある拓也は、整骨院に行くと家族に告げて、歩美に会いに行った。