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1章:風説
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本屋の店員が駐車場に止まった車を見て顔をしかめた。
自動ドアが開き、昭夫が俯きながら入ってきた。
「いらっしゃいませ…」
一瞬にして豚の臭いが店内に広がる。
「くさっ…」
どこからとも聞こえてくる声。
昭夫にとっては耳慣れた言葉であった。
養豚場での暮らしで染み着いた臭い、それに加え昭夫自身が全く不潔とか清潔とか、そういったものに無頓着な男だったので、この辺りの人間は昭夫をひどく疎ましく思っていた。
昭夫は月に一度だけ本屋にやって来る。
顔中に大便を塗りたくっている若い女が表紙の本。
昭夫は毎月この類いの成人向け雑誌を取り寄せていたのである。
レジの女が息を止めているのがわかった。
昭夫はわざと小銭を一枚一枚取り出して、時間をかけて代金を支払った。
「ありがとうございました」
昭夫が出て行くと、店員同士は顔を見合わせ、口をへの字に曲げて嫌悪感を剥き出しにした。
「なんやあいつら…お前らのケツの穴も糞の臭いしかせんやろが!お高く止まりやがって!」
昭夫はアクセルを目一杯踏み込んで家路を急いだ。
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豚の穴 ©著者:小陰唇ふりる
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