ホスト,キャバ,風俗等のちょっと大人の無料ケータイ小説!PC,スマホ、ガラケー全対応!

21章:恋病 (5/5)

酒井は菜々を降ろした後、マンションの駐車場に車を止めてから、近所の小さな公園まで一人ブラブラと歩いた。

真夜中の公園は静まりかえり、風に吹かれたブランコが、たまに小さな音を立てるだけだった。


タバコに火をつけた酒井は、冷えたベンチに座り、ボンヤリと宙を見つめながら煙を吐いた。

白い煙はモヤモヤと広がり、やがて消えていく。



……
私のピアノを聞いたら、母親が迎えに来てくれる様な気がするんです…


酒井は、車内での菜々の言葉を思い出していた。


捨て子として育ち、親戚の家をたらい回しにされていた菜々。
物心がついてから、一人の女性が持ち運びタイプのキーボードを使い、ピアノを教えてくれた事

その女性は、菜々の住まいが変わっても、その度にその場所に現れ、とても優しく温かく、いつも悲しそうな笑顔だった事

しかし、菜々が10歳になる頃から、ピタリと現れなくなった事

あとから親戚の話を盗み聞きして、あの女性が自分の母親だったと気が付いた事


あの時、対向車のライトを見つめる菜々の瞳はキラキラと光っていて、まるで泣いているみたいだったから、酒井は静かに頷く事しか出来なかった。



色褪せたジャングルジムを上っていく煙を目で追いながら、酒井は空を見上げた。

うっすらと雲が広がる暗い空は所々薄紫色に染まり、月の光は既にわからなくなっていた。


タバコを揉み消した酒井は、自分の両手を見つめた。
台風の前日のあの時
つまずいた菜々を抱きとめた、その両手を…。



「30過ぎの日陰者が何考えてんだか。

みっともねぇよな…」


餌を求め飛んできたカラスに話しかける様に呟きながら、酒井は公園を後にした。

朝が訪れる前に…
107 /208

※この小説を友だちに教える⇒メール

いいね LINEで送る

透明な世界 ©著者:品川

夜のケータイ小説サイト「ホスラブ小説」
PC,スマホ、ガラケーで全ての機能が利用できます!

Copyright © hostlove.com All Rights Reserved.