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21章:恋病
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酒井は菜々を降ろした後、マンションの駐車場に車を止めてから、近所の小さな公園まで一人ブラブラと歩いた。
真夜中の公園は静まりかえり、風に吹かれたブランコが、たまに小さな音を立てるだけだった。
タバコに火をつけた酒井は、冷えたベンチに座り、ボンヤリと宙を見つめながら煙を吐いた。
白い煙はモヤモヤと広がり、やがて消えていく。
……
私のピアノを聞いたら、母親が迎えに来てくれる様な気がするんです…
…
酒井は、車内での菜々の言葉を思い出していた。
捨て子として育ち、親戚の家をたらい回しにされていた菜々。
物心がついてから、一人の女性が持ち運びタイプのキーボードを使い、ピアノを教えてくれた事
その女性は、菜々の住まいが変わっても、その度にその場所に現れ、とても優しく温かく、いつも悲しそうな笑顔だった事
しかし、菜々が10歳になる頃から、ピタリと現れなくなった事
あとから親戚の話を盗み聞きして、あの女性が自分の母親だったと気が付いた事
あの時、対向車のライトを見つめる菜々の瞳はキラキラと光っていて、まるで泣いているみたいだったから、酒井は静かに頷く事しか出来なかった。
色褪せたジャングルジムを上っていく煙を目で追いながら、酒井は空を見上げた。
うっすらと雲が広がる暗い空は所々薄紫色に染まり、月の光は既にわからなくなっていた。
タバコを揉み消した酒井は、自分の両手を見つめた。
台風の前日のあの時
つまずいた菜々を抱きとめた、その両手を…。
「30過ぎの日陰者が何考えてんだか。
…
みっともねぇよな…」
餌を求め飛んできたカラスに話しかける様に呟きながら、酒井は公園を後にした。
朝が訪れる前に…
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