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9章:新しい街
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涙をこらえながら歩き、ヒナは24時間営業の質屋に行き
アクセサリーを金に変えた。
全部で20万くらいになったため、少しは今後の見通しがついた。
街中のネオンは明るく
こんな時でもいつもと変わらずに光っていた。
しかし、ヒナの胸は癒される事は無く、何を見ても恭を思い出すため、常に下を向いていた。
ヒナは足早に歩き、タクシーに乗った。
ドライバーに行き先を聞かれ、とっさに思い浮かんだ大きな街の名前を告げると、車は動き出した。
タクシーだとだいたい3万円くらいかかる距離だが
それくらい離れていれば、恭たちの組とは無関係だろうし
夜は治安が悪いと有名なその街なら、きっと自分でも生きていける。
ヒナはそう思った。
タクシーの中で、ヒナは何度も携帯電話を確認した。
しかし恭からの連絡は無かった。
恭はまだ何も知らずに、今頃本家で元旦の準備をしているのだろう。
そういえば、覚醒剤でおかしくなる前の恭は
夜中に帰宅する時は、決まってお寿司を買ってきてくれた。
ヒナが少し残しておくと、いつの間にか全部無くなっていて、代わりに恭が作ったお握りが置いてあったりした。
風邪を引きやすいヒナのために、恭がマメに買い出しに行っていたため、ストーブの灯油が途切れた事なんか無かったし、
なんだかんだ言って、ヒナは仕事をやめてからも、何不自由無い生活を与えられていた。
狭い浴槽に一緒に入った時は、お湯が一気に減ってしまい、二人で笑ったよね。
笑い転げた時にぶつけて出来た痣に、恭は小さく切った湿布を貼ってくれた。
あの頃はいつも二人一緒で、日陰者でも、それなりに幸せに暮らしていた。
そうだよね…。
幸せに暮らしていたんだよね……。
新年早々の高速道路は空いていて
街を飛び越える度に、いろいろなビルや看板が見えた。
この灯りの中に
私より苦しい人間は、何人いるんだろう…
ヒナはそんな事を考えながら、静かに瞳を閉じた。
徐々に都会に近付いているのだろう。
瞳を閉じたヒナの瞼には、次々と明るい光が流れ込んできた…
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