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8章:暴力
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毎日の様に恭にいじめぬかれるヒナは、大晦日の夜に一人ぼっちでも、全く寂しく無かった。
もしかしたら寂しかったのかもしれないが
恭がいない。
その解放感が強く、他の感情なんて
もうわからなかった。
傷だらけの身体をさすりながら、ストーブの前に座っていると、ヒナはふと思った。
そうだ…
消えればいいんだ…。
恭はもう私を愛していない。
私を「敵」だと思っている。
ならば
私が恭の前から姿を消すのが、お互いにとって一番なんだ……
時計の音と、除夜の鐘の音しか聞こえない。
ヒナは痛む身体を庇いながら、必要最低限の持ち物を用意した。
化粧ポーチ。
恭の連絡先しか入っていない携帯電話。
金に代えられそうな高価なアクセサリー。
着回しがききそうな洋服を数着。
お金の入っていない財布でも、免許証や保険証は入っていたため、それもカバンにいれた。
ヒナの胸はドクドクと音を立て、瞳には透明な水色の涙が溢れていた。
恭………
大好きだったけど、もう耐えられない。
私は浮気なんかしていないし
どんな時でも恭しか見ていなかった。
出て行くけど
離れても、私は恭の味方でいるよ……
矛盾している。
それはわかっている。
でもわからない。
わかりたくない…。
ヒナは
二つの紙袋を持ち、サングラスで痣を隠し
一番高級なコートを羽織り、部屋を出た。
鍵を閉めて、その鍵を郵便受けに入れると
いろいろな事を思い出し、その場にしゃがみ込んで号泣したい気持ちになった。
それでもヒナは歩きだした。
外に出ると
肌を切り裂く様な冷たい風が、ヒナの耳元で囁いた。
…お前は孤独だ…
新年の街中は、真夜中でも人が多く
まるで知らない街みたいだった。
どんなに寒くても、すれ違う人々は
皆、幸せそうに笑っていた…
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