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8章:暴力
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澄んだ空気が街を冷やし
遠くの信号機の色まで鮮やかに映る夜。
こんな街中でも、どこからか除夜の鐘の音が聞こえる。
恭は本家で新年を迎えるため、大晦日の夕方から出かけて行き
ヒナは一人マンションで、窓の外を眺めたりして過ごしていた。
テレビを見る気にもなれないし、勝手に外に出る事も禁止されている。
禁止されていないとしても、痣だらけのこの顔じゃ、どっちみち外になんか出られなかった。
恭の妄想は酷くなる一方で、ヒナは恭にとって
「憎むべき敵」
「裏切り者」
に、仕立てあげられていた。
恭は毎日の様にヒナに尋問を繰り返し、最後は決まって殴り飛ばした。
「誰と浮気しているのか?」
「俺に近づいた目的は何だ」
「なぜ俺を見張っている」
「お前の組織名を言え」
全く身に覚えのない内容の尋問は、時として何時間も続く事があり
ヒナの精神はどんどん衰弱していった。
最初の頃は潔白をわかってもらいたくて、どうにか恭に伝わる様に話をしていたが、今ではもうそんな気力も無くなってしまい
ただひたすら時間が過ぎるのを待つだけになった。
頭がおかしくなった恭は
在りもしない妄想を信じヒナを憎んだし、一方でヒナを恐れた。
謎の組織が自分を殺そうとしていて、ヒナはその組織の仲間だと思い込んでいるからだ。
そのため、ヒナには金を持たさず
ヒナの携帯電話の電話帳は、自分以外すべて消去してしまった。
デリヘルの携帯も奪い、恭の舎弟が引き継ぐ事になった。
ヒナは
恭に脅され無理矢理睡眠薬を飲まされ、藥が効いてきても眠る事を許されなかったり
水風呂に入らされた後、タオル一枚で何時間もベランダに出されたりした。
他の女との、のろけ話も聞かされた。
傷ついたフリや嫉妬したフリをしないと、恭は怒り狂い、尚更殴られた。
そのうちにヒナは
恭が出かける日を心待ちにする様になった。
しかし恭は、わざと何時間も帰らずヒナの反応を見て
ヒナがケロッとしていると、また怒り狂いヒナを殴った。
恭の行動は矛盾だらけだったが、ヒナは
殴られない
そのためだけに、なるべく恭の気が済む様に気を使った。
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透明な世界 ©著者:品川
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