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7章:異変 (6/6)

ヒナがマンションに帰ると、ちょうど恭もどこかから帰ってきた様子で、部屋の中はストーブをつけてすぐの匂いがした。


鍋は片付けられていて、腕時計はテーブルの上に置いてあった。


恭はヒナに
出かけるぞ
と言い
テーブルの上の腕時計を、自分の腕につけた。

それを見たヒナの身体は震え出し、瞳からは大粒の涙がこぼれた。


嬉しかったから?
ホッとしたから?



色々な感情が複雑に絡み合い、涙になり身体から溢れる。

そんな感じだった。




二人は車に乗った。
行き先はラブホテルだった。

ヒナは、もう何も考えたくなかった。

ただ、覚醒剤を打てば、恭と愛し合える。
そんな風に思っていた。



そしてまた同じ事の繰り返し。


二人の両腕にはいくつも注射跡ができて、紫色に腫れていた。

身体は痩せ、頬はこけた。

体臭も気になるし、切れ目の症状も益々ひどくなった。



恭は薬を打つと、誰かに監視されていると思い込む様になり、架空の犯人捜しに夢中になった。

変態セックスどころじゃなくなり
何時間もラブホテルの駐車場を確認し、出入りする車のナンバーを、すべてノートに記載したりした。


マンションの部屋の一角に立つと時計から電波を感じるといい、家中の時計を分解して壊した。


誰もいないのに、テーブルの上にコップを置いたり
「見えない誰か」と会話したりした。



しかしそんな恭の行動は、他の人の前では抑えられた。

そのためヒナは、
恭本人も、自分の行動が異常だと気が付いているのだと思っていた。


自分で異常だと気が付いていれば、まだ大丈夫。
何の心配もない。


覚醒剤で汚染されたヒナの脳は、どんな事があっても
「大丈夫」
だと認識した。
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透明な世界 ©著者:品川

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