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3章:錠剤
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バツは、抜ける時も穏やかで、三時間くらいしてからいつの間にか普通の身体に戻ったみたいだが、特に体調不良にはならなかった。
でも、さっきの死ぬほど愛しい想いは、二人の胸に残ったままだった。
恭とヒナは、コンビニに食べ物を買いに行った。
外はいつの間にか薄暗く、辺りからは夕食のにおいがしていた。
黒塗りのマジェスタに乗る瞬間、近くにいた人間が目をそらし、それを見たヒナは、
ああ、そうだった。
恭はヤクザなんだ
と、思い出す。
秋の風が、サラサラサラ…と通り過ぎ、世間を敵にまわした二人はまた近付いた。
マンションに戻ると、恭の携帯が鳴った。
優しい恭の顔が、攻撃的な肉食獣になる。
組関係で揉め事がおこったらしく、恭はすぐに出かけて行った。
マンションに残されたヒナは、ベランダから恭の車を見送った。
闇色の車は、夜の色に溶けていくように、だんだんと見えなくなった。
ヒナはタバコに火をつけた。
テイルランプのように赤く燃える火種をボンヤリと見つめていると、少しだけ寂しくなってしまいそう。
恭…。あなたが生きてきた世界は、どんな世界なの?
恭…。たくさんの暴力に囲まれて暮らしてきた、その瞳には何が見えるの?
ヒナはそんな気持ちを断ち切るように、
タバコの火を壁でもみ消した。
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